開催日:2017年11月6日 通算225回  /  参加者:10名


研究者:K・Sさん

自己病名:統合失調症、夕暮れ症候群、ヘドロ現象、サトラレ苦労タイプ

研究テーマ:「ヘドロ」現象について


 

<苦労の内容>

「りべるて」の夕食時に、みんなと一緒に食事できない。しかし、自宅で一人食べると、寂しくて死にたい気持ちになる。

 (解説:「りべるて」では、夕食をみんなで一緒に作り、食べる活動が、ほぼ毎日行われています)

 

 

<夕食時の「ヘドロ状態」>

●ということで、遊太郎さんに事情を語ってもらいました。・・・食べようとすると、世界が狭まり、手に持っているお椀が変形し、他のメンバーを非難する言葉があふれ出し、自分が自分でなくなる。この状態を遊太郎さんは「ヘドロ」と名付け、当事者研究で何度も研究してきた。主治医にも相談したが「原因は分からない」らしい。

<遊太郎さん自身は、どう思うの?>という質問に、遊太郎さんは「夕方の時間帯だから疲れが出るのか?人が多いから疲れが出るのか?よく分からない」と答えつつ、「自分は、手からバイ菌が出る。だから食事を作る側に回れない。ただ食べるだけの人間」(解説:遊太郎さんによると、彼の手から菌が出ていて、健康障害を引き起こす可能性がある。但し、生命に深刻な影響を与えるものではないらしい)「それなのに、食事を作ってくれたメンバーへの批判的な考えが頭に浮かんでくる。結局、僕は性格が悪い。どうしようもない人間なのです」と語り、「医者が、分からないことを、僕たちが分かろうとするなんて、無理なんじゃないでしょうか?」と言葉を続けました。その言葉を受けて、ミーティングの場には、出口のない行き詰まり感が漂い、しばらくの間、沈黙の時間が流れたのです。

 

 

<「無理してへんか?」>

●すると、その沈黙を破るように、突然「(遊太郎さん)無理してへんか?」と短く、少し鋭さを含んだ言葉が投げかけられました。その言葉が、遊太郎さんの心の中にある”何か”と共鳴したのか、新たな語りが始まりました。

 

 

<僕は何もできない・それが辛い>

「カフェで働いている人もいる。パン屋で働いている人もいる。(解説:りべるての活動として、カフェやパン屋を営業している)みんなの為に夕食を作っている人もいる。誰もが役割を持っている。それに比べて、僕は何もできない。それが辛い」「これまで、誇れるものとして卓球があった。でも最近は若くて強い人が出てきて勝てない」(解説:遊太郎さんは卓球大会で何度も優勝してきた。それが誇りでもあった)

これに対して<遊太郎さんには詩があり、編集長という役割がある。すごい才能を持った人だと言われていますよ>というフォローが入ります。(解説:りべるてでは、「当事者あるある」という季刊誌を発行しており、Sさんは、編集長を務め、詩も発表している)しかし、「確かに編集長の役割はある。でも、最近、詩が書けない。だから過去の作品を使い回ししている。いつかネタ切れになる。そうなれば、編集長も降格です」と危機感が示されました。

つまり、”りべるて”での自分の「立ち位置」を見いだせず、さらに、これまでの自分のアピールポイント(卓球と詩)も怪しくなってきたという”厳しい現実”に苦労している。そういう事情が対話の中から明らかになってきたのです。そして、「ヘドロ」はその文脈の中で起こっている。当事者研究には「病気は治すより、活かせ」という理念がある。「ヘドロ」を薬で抑えるだけでは、もったいない。病気のメッセージを読み解こう。話は進みました。

 

 

<「ヘドロ」研究・大きく前進>

●一連の話し合いの結果、①「ヘドロ」の正体は、「他の人には役割や誇れるものがあるのに、自分には無いという劣等感と嫉妬心」ではないか、②さらに遊太郎さんは、今現在、”りべるて”の中での自分の「立ち位置」を見つける苦労の真っ只中にいるのではないか、ということが共有されたのでした。

こうして今回、遊太郎さんの「ヘドロ」研究は大きく前進しました。遊太郎編集長、貴重な体験発表ありがとうございました。「ヘドロ」現象との付き合いは、今後どうなっていくのでしょうか?研究は続きます。